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【青池保子】
『イブの息子たち』青池保子(白泉社文庫/全3巻)
神がアダムとイブを創ったとき、助手を務めた天使ドジエルが間違えてイブのあばら骨から創った、第3の人類ヴァン・ローゼ族。
すなわちタイトルロールの“イブの息子たち”である彼らは、混乱をきたさないため、神によって島流しにされた彼らは、
ワインでいう赤と白の中間、という名のとおり、形態こそ男の姿をしているが、
実際には男女どちらでもない中間点の存在だった。ロンドンに暮らすピアニストのヒース、
詩人のバージル、アイドル歌手ジャスティンの3人は、ある日突然ドジエルから自分たちがヴァン・ローゼ族の子孫と告げられ、
お釜円盤で強引にアトランティス大陸へ連れて行かれる。そこで彼らを待っているのは、
有名無名、実在架空、時代考証まったく無視して集まった古今東西の有名人たちだった。
しかも全員、いずれ劣らぬ変態ばかりで、ホモにレズ、SMetc、普通の世界でアブノーマルとされる性向がここでは当たり前、
という世界観のもと、3人は、女だけが住むムー大陸との決戦に巻き込まれていく…。
という話をふりだしに、ヒース、バージル、ジャスティンの3人組が
その都度現れるドジエルの兄弟たちにより異世界へ連れて行かれて起こる騒動を描いた、
ハイパー・スラップスティック・コメディ。アトランティスに始まってエデンの西、オリンポス、地中王国、地獄、ソドムの都など、
彼らがめぐる世界では必ずヴァン・ローゼと対立する女性ばかりの国があり、双方はお約束のように戦争に突入するのだが、
何といっても凄まじいのはその住人たちのバラエティ豊富さ。
マゾのアレクサンダー大王、首狩りが趣味のサロメに拷問狂のマリー・アントワネット、アルプスの老女ハイジ、
バイカー軍団を率いるジャンヌ・ダルク、
美少年を薬で操り、男と絡ませての“人形遊び”を楽しむ少公女(しかし、これってもう現実化しているようで恐い)、
尼将軍ならぬ尼ゴジラに変身して火を吹く北条政子ほか、美女選びそっちのけでバージルと恋に落ちるパリスや、
一人シリアスなヤマトタケル、森蘭丸(「その道の日本代表」として登場)、ロック鳥(「空の大怪獣ラドン」にも変身)を駆るマホメット、
みけんのタテジワも鮮やかに「ヒース、私を見て…」と苦悩しながら白鳥に変身するニジンスキーなど、
よくもこれだけの人物を…と、その量と荒唐無稽さもさることながら、作者の豊富な知識とパロディ・センスに押し切られて読んでしまう。
話に勢いのあるのももちろんだが、パロディとなると作者自身の知識や理解が必要になるわけで、
それができないとナンセンスではなくセンスのカケラもないものになってしまうのだけれど、
文学から映画、歴史、ロックに至るまで、あらゆる要素をつめこみながら、ハチャメチャながらもひとつの世界観を形作るのは、
作者のセンスと博識と骨太な筆力あってのことだろう。
因みに、ヒースはキース・エマーソン、バージルはグレッグ・レイク(彼がPART.1の冒頭で詠んでいる詩はキング・クリムゾンの「エピタフ」)、
男からも女からも狙われる襲われ役のジャスティンはピーター・フランプトンと、
当時作者のお気に入りだったミュージシャンたちをモデルにしているとか。
とはいえ、ただ笑えるだけでないのも本作のいいところで、徹頭徹尾メチャクチャなエピソードの応酬の底に流れるのは「男の愛と行動の美学」なのである。
ロンドン市内をレオパルド戦車が行進、お釜円盤の団体襲来など、
いかなる事態も持ち前のタフさとガッツで乗り切るヒースも、うんちくたれでスケベだが有言実行のバージルも、
形は違えど一本スジの通った“男らしさ”を秘めたイイ男たちなのが嬉しい。
また、彼らをとりまく有名無名のヴァン・ローゼ族にも、同様に魅力的な美形が多く、
読み進めばどれか一人は好みのキャラが見つかりそうなのも楽しみのひとつ。尚、番外編には『エロイカより愛をこめて』の伯爵や少佐、
ジェイムズ君や『エル・アルコン-鷹-』のヒーロー、ティリアン・パーシモンも登場し、荒唐無稽に拍車がかかっている。
『エロイカ~』に登場する少佐の部下G(ゲー)がどうしておかまになったかは、
同じく番外編「グッド・カンパニー」を読めばわかるなど、シンクロのお遊びが楽しい。
『エロイカより愛をこめて』青池保子(秋田書店/プリンセスコミックス/1~31巻・以下続刊 ※秋田文庫版は1~20巻・以下続刊)
ブロンド巻き毛がトレードマークの美男子、ドリアン・レッド・グローリア伯爵、またの名を怪盗「エロイカ」。
美術品窃盗犯としてその名を轟かせ、華麗な手口で獲物を持ち去った後には「エロイカより愛をこめて」と書かれた気障なカード一枚…。
そんな彼の最も好むものは、贅沢と美青年(男色家なので)。
だが、異常に金に細かく電卓が手放せない部下のジェイムス君にせっつかれ、およそ優雅とばかりは言えない日々を送っている。
やがて彼の行くところ、どういう巡りあわせかNATO(北大西洋条約機構)情報部のエーベルバッハ少佐が姿を見せるようになる。
唐変木かつ豪放磊落、美術品より戦車に美を感じる少佐の融通の効かなさに辟易していた伯爵だが、
やがて少佐の信念や人間性に惚れこみ、対立・協力を繰り返しながらも腐れ縁を育んで(?)いく。
彼らを中心に、ソ連(シリーズ開始当時)のKGBやSIS、CIAなどが絡んで繰り広げられる何ともスケールの大きい怪盗&国際謀略アクションコメディー、
と説明するのがわかり易いような気もするが、およそジャンル分けという行為が無駄なほど、
あらゆる面で楽しめる作品であり、作者にとっても代表作である。『イブ~』が荒唐無稽な設定のもとにハチャメチャぶりを極めたのに対し、
こちらはより洗練されている。ギャグのみならず、テンポ良い会話や丁丁発止のやりとりで読者を笑わせつつ、
そこに各国の陰謀が絡んでのスリル、アクション、サスペンスを織り込んで、ハリウッド映画もかくやという、
世界をまたにかけた展開が楽しめる。
もちろんそんな中で男女の甘いラブロマンスなど生まれる余地は毛頭なく、
ひたすらマッチョな男たちがこれでもかと画面を縦横無尽に走り回るのだが
(おかげで、No.1で伯爵が執心していた天才美少年のシーザー君など、途中でどこかに行ってしまった)、
とりわけ、NO.2から登場したNATOの「鉄のクラウス」こと、
クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐の存在感は強烈で、
シリーズが進むにつれ主役の座を事実上奪ってしまった。この男に惚れこんだために人生変わった腐女子も少なくはなく、
ドイツ語を学び、数年に一度のヨーロッパ詣が習慣となり(もちろん一度はドイツのエーベルバッハ市を訪れる)、
あげくの果てにドイツ系企業に就職したというツワモノもいる(もちろん彼女らの口癖は「きさま!アラスカに送るぞ!」であろう事は想像に難くない)。
しかし確かにエーベルバッハ少佐は魅力的なキャラクターなのだ。
普段が「はえぬきの軍用犬〈ドイツ・シェパード〉」で強面なだけに、ふと覗く人間らしさや少年ぽさが愛すべきものとして映るし、
何より少女漫画史上最強の頼れる男なのは確か。片手でマグナムをぶっ放し、必要とあらばレオパルド戦車からミグ戦闘機、
ルフトハンザ航空機まで一人で操る一流の軍人なのだから。
しかし本作の面白さは、やはり伯爵と少佐という硬軟対象のキャラクターが生む妙味にあり、
その意味では二人ともしっかり主人公なのだ。また、彼に関わる各国のエージェント(代表:旧KGBの「仔熊のミーシャ」)や
伯爵の部下で奇人変人宇宙人ぶりが年々度を増していくジェイムズ君、有能で皆に好かれるメカの天才ボーナム君といった伯爵の部下や、
少佐に「無能!」とののしられながらも、健気に働く部下A(アー)君やおかまのG(ゲー)をはじめとするNATO情報部勢など
、脇役も皆個性的で人間臭く、彼らの攻防戦を見ているだけでも楽しめる。
が、加えて特筆すべきはメカニックや舞台となるヨーロッパの街並、美術品など、詳細に描きこまれたディテールの数々。
これらが巧みに織り込まれた時事ネタともども物語の豊かさ&リアリティーを支え、
男女問わずにファンを取り込む間口の広さと、根強い人気を支える要素となっている
(実際、本作のことがドイツで報道され話題になったとき、メカや都市の風景が詳しく描かれていることも評価されていたが、
このことは作者のエッセイ集『「エロイカより愛をこめて」の創り方』に詳しい)。
単行本でいえば1~19巻までが、NATOとKGBとの対立を軸にした“冷戦下”の物語で、20巻以降は、
その後数年の中断を経て再開された“冷戦以後”の物語となっている。
国際情勢の変化に沿って、登場人物たちの関係には多少変化が見られるが、
現在も「プリンセス」誌上にて連載中。少佐も伯爵も、今日も元気に世界中を駆け回っている。
手を変え品を変え描かれる機密(もしくは美術品)争奪戦、各自最大級のプロ意識を持ち、国益を追求しながらも、
利害が一致すれば手を組みもする、おっさん達の知力と体力と男気のストーリーは、いつ読んでも、何回読んでも面白いのだ。
余談だが青池保子は昭和24年下関生まれ、デビューは15歳の時だったが、やはり24年生まれの下関出身者の有名人として、松田優作がいる。
下関にはやはり彼やエーベルバッハ少佐のような硬派な男を育てる(?)風土があったのだろうか。
なお、21巻のあとがきによると作者も優作氏のファンで、
冷戦終結後シリーズの2作目「熊猫的迷宮」には、彼がモデルの中国人諜報員が登場している。
『緋色の誘惑』青池保子(プリンセスコミックス)
オカルト問題専門の病院「マインド・メディカル・センター日比谷」の院長・あんりは、うら若き美女ながら、
実は強力な力を持つ霊能者。自分の仕事を「魂のお医者さん」と定義づける彼女は、その力で多くの人を迷いから救う。
そんな彼女の守護霊は、東京タワーの上空に鎮座する龍神「ウシロ」。
だが「ウシロ」様が降りてくると、楚々とした彼女の容姿が突然、三白眼の男に変わり、
横柄で威圧的な態度と意地の悪さで周囲の者を怯えさせてしまうのだった。
そんなあんりの元で働く青年・井上は、「ウシロ」の勧誘を受けてしだいに心霊治療の仕事にリアリティを感じていくが、
彼をオカルトから脱却させるべく、
かつての家庭教師にして「世田谷医大のブラック・ジャック」と呼ばれる有能な外科医・加賀が、あんりの仕事に介入しはじめる。
現代医学第一主義で、オカルトを不倶戴天の敵とみなす加賀だが、あんりの元では次々と不可解な出来事が起こり……。
普段は清楚な美女なのに、龍神「ウシロ」が降りてくると人格が変わるあんりのギャップに満ちた姿と、
目の前で何が起ころうとオカルトのオの字も信じない鉄壁の熱血漢・加賀の言動のズレに、
読み進むうちそこかしこでクスクス笑いを誘われる、
肩の力を抜いて楽しめるオカルト・コメディー。アホな三枚目だが、
加賀先生を慕うマルホの井上くんのけなげ(?)な男心も、各エピソードで笑いをふりまくネタとして使われている。
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