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shinobu様ご推薦 海外小説特集

『ジャックが建てた家<ホープ弁護士シリーズ>』エド・マクベイン/長野きよみ訳(ハヤカワ文庫)
殺人の容疑で逮捕された農夫ラルフ。悲鳴を聞いて階下におりると、そこに胸に包丁をつきたてられ、
血まみれになった弟ジョナサンがいたのだという彼の弁護を引き受けたマシュー・ホープは、
現場から立ち去るのを目撃された黒づくめの男の行方を追う。
殺されたジョナサンがゲイであったため、ホープは彼のゲイ社会での交友関係も同時に追うが、
そこから浮かびあがってきた事実は、意外なものだった。
弁護士ながらハードボイルド探偵の香りもするホープ弁護士の活躍を描くシリーズ8作目。
被害者がゲイということで、ホープが辿るその足跡からゲイ社会の様相が浮かびあがりもするが、
最終的には家族の悲劇、ゲイ男性を愛した女の悲劇に集約されていくので、好き嫌いが分かれるところかもしれない。

『闇に消える』ジョゼフ・ハンセン/朝倉隆男訳(早川書房)
1970年、純正ホモセクシュアルの探偵を主人公として、
初めて大出版社から発行されたエポック・メイキングな作品として知られるシリーズの第1作。
生命保険の調査員である主人公デイヴ・ブランドステッターの生きざまと、
彼が関わる事件、人々の人生などが描かれていくシリーズで、各作品ごとに社会的な問題への目配りがなされ、
シリーズが進むにつれ深みを増していくのだが、この1作目では、ブランドステッターは長年の恋人を失い、
失意の底にあるという設定。
だが、人気絶頂のカントリーシンガーが失踪したため、その保険金を巡っての調査に向かうのだが……。
という大筋の中から立ち上がってくる、その人となりが、何とも魅力的で、
単にミステリーとして面白いだけでなく、ブランドステッターという人物に再会したいと思わせてくれる内容になっている。
ゲイとしての人生をきっぱりと受け入れ、あくまでも一対一の真面目な関係を求め
「仕事のために自分のセックス・ライフを放棄するつもりはありませんね」と嘘ぶきながら、
結局正義感ゆえに危険に立ち向かっていき、
傷を追いながらも歩み続ける主人公の姿(それは本当にアメリカ的なハードボイルド・ヒーローの姿だが)と、
随所で描かれるその恋愛模様も、事件によって出会い、結びつく姿など、
常に順風満帆というわけにはいかないだけに、かえって読者の共感をそそるものがある。
とりわけ、親子ほどに年が離れながら、安定した関係を紡ぐ黒人青年セシルとの細やかなやりとりが印象的。
シリーズ後半に行くほど、ブランドステッターが自身の老いや死の影を色濃くしてゆくので、
こちらにも重くのしかかってくるものがあるが、2作目以降もシリーズ全てが、
ハヤカワ・ポケット・ミステリから刊行されている。タイトルは以下の通りなので、
興味ある方はぜひ全巻読破してほしい(発表順)。
●『死はつぐないを求める』
●『トラブルメイカー』
●『誰もが恐れた男』
●『ブルー・ムービー』
●『砂漠の天使』
●『真夜中のトラッカー』
●『放浪のリトル・ドッグ』
●『早すぎる埋葬』
●『服従の絆』
●『弔いの森』
●『終焉の地』

『このささやかな眠り』マイケル・ナーヴァ/柿沼瑛子訳(創元推理文庫)
ヒスパニックでゲイ、という、
アメリカ社会で生き抜くにはタフな背景を持つ弁護士ヘンリー・リオスを主人公としたシリーズの第1作。
作者が検察庁勤務のかたわら書きはじめた作品だけあって、
法曹界について詳しく描かれており、それが物語に迫真性と重みを与えている。
が、やはりこうしたミステリー作品では、探偵役でもある主人公が魅力的かどうかが面白さのバロメータ。
その意味でヘンリー・リオスは、先に挙げたバックボーンに加え、優秀な弁護士として社会的な地位を持ちながら、
「ゲイでチカノ」というマイノリティとしての立場を認識し、それゆえの苦悩と怒りを併せ持つキャラクター造形や、
依頼人の青年との恋、愛と矜持を賭けて闘う姿など、かなり魅力的だ。
麻薬がらみの罪状を抱えた青年ヒューとのささやかな愛が語られるこの1作目の他、
エイズにかかった友人からの依頼で、冤罪に問われるゲイ少年の弁護を引き受ける『ゴールデンボーイ』、
幼児暴行の嫌疑を受けた幼なじみの弁護のため故郷に戻る『喪われた故郷』、
市長選に乗り出したメキシコ系の上院議員の射殺事件に関わる『秘められた掟』などが翻訳されている。
物語を通じて描かれる、ヘンリーとその恋人たちとの出会いと別れなども情感豊かに描かれ、
読みごたえのあるシリーズ。

『キラー・オン・ザ・ロード』ジェイムズ・エルロイ/小林宏明訳(扶桑社ミステリー)
1983年9月、ニューヨークで一人の連続殺人犯が逮捕された。
彼の名はマーティン・プランケット、“変態死刑執行人”と呼ばれ、FBI連続殺人特別捜査班に追われていた彼は、
獄中で回想録を執筆。ロサンジェルスでの少年時代に始まる、
アメリカ国内を西から東にわたって続けた“連続殺人のクロス・カントリー”の全貌を告白する。
ただ単にドキュメンタリー・タッチであるだけでなく、作者の情念がマグマのように流れる内容は、
殺人者の心理に迫って、迫真というも甘いような生々しさがある。
とりわけ、ラスト近く、主人公の欝屈が、もしかすると実際には
ホモセクシュアルなその欲望を押し殺そうとしていたためではないか、と暴露されるくだりが衝撃的。

『血まみれの月』ジェイムズ・エルロイ/小林宏明訳(扶桑社ミステリー)
1964年6月10日、金曜日。ハイスクールの生徒だったホワイティとラリーは、
気にいらない同級生のバードマンに暴力をふるい、思うさま叩きのめした。暴力のさなかにホワイティは勃起し、
最後にバードマンを犯して去っていく。それが、すべての事件の始まりだった。
数年後、次々と若い女(時には男)が惨殺される事件が起き、
ロス市警強盗殺人課部長刑事のロイド・ホプキンスはこれを追うことになる。
仲間から“ブレーン(頭脳)”と呼ばれ、速読法や記憶術を駆使する天才肌のホプキンスだが、
捜査に乗り出した彼に上層部からの圧力がかかる。
上司から部下からも見放されながら、独りで犯人を追いつめるべく奔走するホプキンスだったが……。
“詩人”と呼ばれる連続殺人犯と、異常なまでに強い正義感と天才的な捜査能力を持つ刑事の対決を描いた、
ロイド・ホプキンス・シリーズ第1作。
冒頭のレイプシーンのみならず、ホプキンス自身も幼年期に男から性的虐待を受け、
そのトラウマに苦しんでいるという設定など、登場人物のねじれた情念が物語の底に澱のように重なり、
単なる「刑事もの」で終わらせないダークな読後感を残すあたりは、初期作品とはいえまぎれもなくエルロイ印。

『ジャーク』デニス・クーパー/風間賢二訳(白水社)
1973年、実際にアメリカで起きた事件(ディーン・コルルによる少年凌辱・拷問・殺人事件)を元に創作された作品。
コルルの共犯者の一人だったディヴィッド・ブルックスが大学教授と講義を受ける生徒たちの前で、
自作の人形劇を披露するという設定だが、その内容はコルルの事件であり、
また同時に劇の内容を補足するためのふたつの物語が朗読される。
三重構造という込み入った設定、さらに巻末にはこれらに対する学生の研究レポートが添付されるなど、
あたかもノンフィクションであるかのような仕掛けが徹底している。
それにひと役買っているのが、ネイランド・ブレイクの造形による人形達で、人形劇のくだりにはこれらの写真が挿入されているが、
一見ユーモラスなピエロ等をかたどった人形の姿が、実際の殺人現場も、このようにグロテスクと滑稽さが
紙一重のものではなかったかと、残酷な想像をかきたてる。
尚、タイトルは「譫望症」「痙攣」「発作」「性行」「虐待」などの意味が込められているらしい。

『クローサー』デニス・クーパー/浜野アキオ訳(大栄出版)
LSDとディズニーランドが好きで、すべてに受動態の少年、ジョージ・マイルズは、
その神秘的な魅力で多くの級友たちを引きつける。
アーティストのジョン、自分を大スターだと思い込むディヴィッド、
スプラッター映画とポルノグラフィーにのめり込むアレックス、
アンダーグラウンドのナイトクラブを経営しようとするスティーヴ。
そこに二人の中年男が絡んでくる物語は、その全編に溢れるセックス描写にも関わらず、
どこかピンボケしたポルノ映画を見させられているような、遠く、冷めた印象がある。
すべてがドラッグ漬けの沼のなかに沈んでいて、底にたまる澱を覗き見ているような……。
ジョージが死体であることを暗示する描写もあり、もしかすると登場人物全員すでにこの世のものではないのでは、
という気にもさせられる。
作者はこの作品の執筆当時、ボーイフレンドを追いかけて赴いたアムステルダムで絶望のどん底に落ち、
自殺を考えていたという。そうした情念が一言一句にしみわたっているような、陰い情念が感じられる一冊。

『フリスク』デニス・クーパー/渡辺佐智江訳(ペヨトル工房)
『クローサー』に登場した中年の連続殺人鬼フィリップとトムの物語を長編化したような作品。
主人公のセックスと殺人行脚が下品なくらいあけすけな文体によって綴られるが、にも関わらず、
ラストでこの物語すべてが嘘であるかも知れない、というメタフィクションとしての仕掛けもさりげなく凝っている。
とはいえ、およそ道徳などというものとは無縁に、快楽殺人の仕組みを描いた作品でもあるので、
下手な実録シリアルキラーものよりずっと危険な作品であるかもしれない。

『その澄んだ狂気に』デニス・クーパー/浜野アキオ訳(大栄出版)
短編集だが、過剰なまでのセックス描写がやがて死の匂いを発散する作者の持ち味は変わらない。
他の作品と比べて、いくらか感傷的な描写が多くなっているとはいえ、
全編に溢れるポルノグラフィー、及び殺人のイメージは、どこか滑稽ささえある。
収録作は「死の群れ」「異様」「容器」「ホラー・ホスピタル紹介」
「彼は叫んだ」「ディナー」「出発点」「親愛なる秘密の日記」「無傷」等。 

「彼の口はニガヨモギの味がする」
ポピー・Z・ブライト/柿沼瑛子訳(ミステリマガジン1994年8月号掲載)

「ともに絶えざる暗い夢の追求者」である“ぼく”とルイスは、世の中のすべてに満足できず、
その欲望を女性から少年まで伸ばしてみるが、それも救済にはならなかった。
二人はルイスの屋敷にひきこもり、墓を暴いて集めた品で室内を飾りたてる。
やがて、彼らが手にした最高の戦利品とは……。
古典的なゴシック・ホラーとしての体裁を持ちながら、過剰なほど装飾的な文体、美しい少年たちの同性愛、
そこここに見られるゴス・テイストなどが印象的で、最後には少年たちが飲むアブサンのように、
彼らの希望と愛の儚さが苦く残る。
同じ作者の長編『ロスト・ソウルズ』と同様、青春小説としても読める一編。

『ロスト・ソウルズ』ポピー・Z・ブライト/柿沼瑛子訳(角川ホラー文庫)
マルディ・グラの最後の夜、緑色の目を持つヴァンパイアの子供を身篭った少女は、
その命と引き換えに男の子を生んだ。母親の肉体を引き裂いて誕生した子供は、
ナッシングと名乗る美しい少年に成長する。
養親のもとで人間の子として育てられた彼だが、つきまとう疑問と孤独を埋められず、
魂を揺さぶったロック・バンド『ロスト・ソウルズ?』のメンバーが住むミッシング・マイルへの旅に出る。
ゆきずりに彼を拾った青年ジラーに血と官能の味を教えられ、彼と愛しあうようになるナッシング。
だが、酷薄で美しいジラーは緑の瞳を持っていた……。
ヴァンパイアと人間の混血児として生まれ、自己のアイデンティティを求めて彷徨うナッシングと、
彼が心惹かれる『ロスト・ソウルズ?』の二人のメンバー、ゴーストとスティーブの物語が平行して進み、
しだいに交錯していく。
全編を彩る濃厚な夜の気配、ニューオーリンズという街特有の気だるい空気、
キュアーやバウハウスといった音楽にファッション等のゴス・テイスト、バイセクシュアル、
近親相姦といったエピソードの数々が、頽廃的でインモラルなムードを加速させ、
ヴァンパイア、幽霊、バイオレンス描写など、仕掛け的にはモダンホラーとしての装いが凝らされているが、
その中でつきつめられていくナッシングの孤独と混乱、この世ならざる者を見る力を持つゴーストと、
彼をかばい、守ろうとするスティーブの姿(この二人の友情以上、恋愛未満とも言うべき関係が魅力的)
からは、読み進むにつれ、自らの魂を探しだそうとする者たちの純粋な希求が立ち現れる。
ホラーであると同時に、優れた青春小説を読んだ気分にさせられる作品。
尚、本作より耽美色・ホラー色は薄いが、ゴーストとスティーブの物語は、短編「ニューヨークの歩き方」が翻訳され、
1999年のミステリマガジン8月号に掲載されている。挿画は多田由美。

『絢爛たる屍』ポピー・Z・ブライト/柿沼瑛子訳(文春文庫)
アンドリュー・コンプトンは、17歳のときから5年間で男性ばかり22人をレイプし殺害した、
未曾有のゲイ殺人鬼として逮捕され、ロンドンの監獄に収容されていたが逃亡。
快楽殺人を繰り返しながらニューオーリンズへと渡った彼は、富豪のプレイボーイ、ジェイ・バーンと出会う。
彼もまたゲイで、アンドリュー同様、殺人を芸術とみなし、愛した者の肉体を食べることを至上の快楽と考えていた。
お互いを運命の相手と見なした二人は、ベトナム系の美少年トランに、究極の犠牲者として白羽の矢を立てる……。
二人の殺人者とその標的となる美少年トラン、
および彼の元恋人でHIVポジティヴの作家ランサムの四人の視点から物語が語られ、
『ロスト・ソウルズ』同様、ニューオーリンズの闇と湿気の底でそれぞれの欲望と傷ついた魂が絡みあう。
前作とは異なり、女性は誰一人登場せず、ひたすら美しい男たちが登場する設定もさることながら、
それ以上に徹底しているのが、レイプ、殺人、食人、腐乱する死体などの描写。
徹底してリアルに、この上なくおぞましく描きながら、そこから立ちのぼる腐臭のように、
いつしか甘美なラブストーリーとしての側面が浮き上がってくるのはさすが。
毒だと承知しながら呑まずにはいられない、昨今では数少なくなった、そんな阿片の魅惑に満ちた作品だ。

「薄い壁」ナンシー・A・コリンズ/小林理子訳(扶桑社ミステリー『ゴーサム・カフェで昼食を』収録)
マーティン・H・グリーンバーグほかの編集による「異常な愛と欲望」をテーマにしたホラー・アンソロジーに収録された一編。
他人の目もかまわず、屈折した愛憎をぶつけあう年老いたゲイ・カップルの姿と、
若い男の介入によってその生活が破綻するさまを、
壁薄いアパートの隣室に住む女子大生の視点から描く。
冒頭から悲劇を予感させる展開がサスペンスフルで、世界における「異物」である登場人物への眼差しなど、
他の長編に見られる要素も垣間見える。
とりわけラストの
「愛は搾取する。わたしたち全員を愚かものと奴隷にしてしまう」
に始まるモノローグが印象に残る。

 
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