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shinobu様ご推薦 長野まゆみ特集2

『新世界』(河出文庫文藝COLLECTION/1st~5th)
太陽(ソル)から二億三千万キロ離れた夏星(シアシン)。
そこではP.U.S.(パス)という先天的な病の因子が住民を蝕み、人々は“新世界”への渡航を夢見ていた。
斡旋住宅で兄シュイと二人で暮らすイオの周囲には、ある日を境に異変がたて続けに起こる。
ハルはどうして彼をミンクと呼ぶのか、兄シュイの正体は、イオの手に残された謎の物質“ゼル”とは何か? 
そもそも夏星とは何で、彼らの存在意義とは何なのか?
全5巻、完成までに二年を要した目下のところ著者最長の大作。
本来ならば作品の背景をなすべき世界観は、冒頭ではほとんど伝えられず、読者は主人公たちと共に、
彼らが遭遇する混乱と困難をありのままに受け止め、手さぐりでこの世界を進むしかない。
記憶は捏造され、身体は性別のみならず世界との境界をすら失う。
そこから立ち上がってくる世界観―支配・被支配が確立され、
細かに区分けされた階級社会、記憶や肉体すらも徹底的に管理される様子、P.U.S.により際限なく肥大し、
世界と個との境界を見失ってしまう肉体、etc.―は、まさに現代のこの世界に生きるわたしたちの縮図にしか、
今となっては見えないのだが、ともかく、確実なものなど一切存在しない世界の混沌をつきつめつつ、
物語を牽引していく著者の非凡な想像(創造)力とその怜悧な眼差しには、改めて感服させられる。

夏星では少年たちは無力で、欲望の対象であり(道端で公然と性行為を行われたりもする)、
徹底的に支配・搾取され、また性の境界も曖昧で、そのために血縁関係や性関係も複雑に錯綜し、混乱する。
どこまでも不確実でグロテスク極まりないこの世界は、
だからこそ、そこに生きる少年たちの姿をより美しく、凛々しく、剛いものとして立ちあがらせるのかもしれない。
世界に希望はなく、本人たちも持ち合わせてはいないが、絶望に溺れることはない彼ら。
毅然と顔を上げて、果てのない暗闇の中を進んでゆくそうした少年の姿は、やはり、著者の作品のひとつの真骨頂なのだ。
『テレヴィジョン・シティ』から始まった、性的なものを直接言葉にするのではなく、
造語に組み立てて表現するという手法が全編に散りばめられており、
燐光(スパァク)、哈蜜(ハミ)、恩寵の注入(アンフュージョン)、《PURE(プレ)》、紅瓊(ルビオ)、花唇(フィオル)などの単語が
曖昧な性別の境界線を飛び交い、全編に官能の気配を敷きつめる。
2006年4月より文庫版が毎月刊行中。

『紺碧』(集英社文庫『鳩の栖』収録)
中学生の浦里亨は、姉の急逝後、義兄の来島と共に暮らしていた。
来島にひそかな思慕を抱いていた亨だったが、教師である義兄の元には縁談が持ち込まれることも少なくない。
姉の死で同居する意味もない今、別れて暮らすべきかと亨は悩む。
友人の真木は何かにつけ亨をかばうが、やがて亨と義兄の関係についてよからぬ流言が流れはじめ……。
兄への思いと自らの進むべき道に惑う少年期の心理をみずみずしく、しかしべたつかない乾いたタッチで描いた小品。
同じ短編集に収録された「紺一点」共々、後に単行本となる『紺極まる』に繋がっていく。

『紺一点』(集英社文庫『鳩の栖』収録)
高校に進学してからの浦里と真木の話。下宿して実家を出た真木と、
同じ街で兄と暮らす浦里のもとで起こる騒動と、故郷の街を離れてもつきまとう血縁関係の面倒、
お互いの変化と成長を綴る、単行本書き下ろし作品。

『水迷宮 汪〈うみ〉の巻』(河出書房新社)
『雪花草紙』からの流れを汲む、幻想時代絵巻。
水府の帝の皇女・千潮姫の怒りをかったことで、
何世代にも及ぶ因果を背負うことになる名門・中延家の者たちの過酷な運命と悲劇を綴る。
親から子へ、そしてその愛する者たちへと引き継がれてゆく宿業に、近親相姦などのさらなる業が絡み、
際限なく重ねられてゆく罪。その背後には、常に水天女の棲まう海、操る水の光景があり、
人が生きていくうえで必要欠くべからざる水(千潮姫)を、人間がエゴにより裏切る、
もしくは利用しようとした結果報いを受ける、という物語の核には、単なる因縁話にとどまらない、エコロジカルな警告の存在も感じられる。
とはいえ、運命に導かれて、業の深い契りを繰り返す登場人物たちの姿は、充分に官能的。「其の二」では、
父親の因果により異形として生まれ育った兄弟、是央と那智が、異形ゆえに一人の姫を共有するさまと、
那智の是央へ寄せる愛が描かれ、これも結末は残酷だが、終盤の兄の心情の変化に、一抹の救いがある。

『水迷宮 瀧の巻』(河出書房新社)
『汪の巻』に続く物語。巻頭の人物系図は中延氏を中心に、婚姻関係によりさらに複雑な広がりを見せ、
水天女の前にエゴイズムを吐露する人間たちの宿業のさまが重ねて繰り広げられる。
前作にも増して美貌の少年たちが業を背負う者、もしくは媒介者として、より重い宿命を背負って登場するが、
とりわけ「其の七」での、水天女に女身となるよう術をかけられる夜叉王の物語から、
「其の八」での猿楽の白拍子・真朱(まさお)、将軍家の世継ぎである敦之、
その玩童である乳王丸の三人の物語への流れは全体のクライマックスと言ってよく、印象もひときわ鮮やか。
男女の肉が生む業により上塗りされ続けてきた罪深い宿命が、
愛する者のため我が身を捨てた少年たちの結びつきにより絶ち切られるというのが、何とも象徴的だ。

『白昼堂々』(集英社文庫)
1976年初冬、由緒ある華道家元の若き跡継ぎである凛一は、従姉である省子の男友達だった氷川と出会う。
ある弱味を握られて、省子に言われるまま女の服を着、彼女の身代わりとして向かった場所に現れた氷川が、
凛一を省子と間違えて強引にキスをしたのだ。だが、そんな唐突で奇妙な出会いにもかかわらず、
その時から氷川の存在は、凛一の中に特別なものとして刻まれはじめる。
冬、春、夏と、季節の移ろいとともに変化し、成長していく少年たちの姿と、内に秘めた想いを描いた人気シリーズの第1作。
前半部分は、同じく集英社文庫『上海少年』の巻末に独立した短編として収録されている。

『碧空』(集英社文庫)
『白昼堂々』に続くシリーズ2作目。
氷川が京都の大学に進学、感情を持てあましながら東京での高校生活を続ける凛一をとりまく、
環境と人間関係の変化が丹念に描かれる。
高校の上級生で重い病を抱える有沢など、新しく出会う人物をはじめ、
口は悪いが理解者だった千尋の結婚、京都で女友達ができたらしい氷川との再会、
流派の将来を考える祖母の、家元としての思惑など、凛一自身の足元と未来を揺るがす出来事が次々と露になり、
静かな緊張感の中、読者も共に彼の苦悩、迷い、決断に至る過程を感じ、見守ることになる。
『少年アリス』等の初期作品と異なり「成長する少年」たちを描いていくという著者の考えが、
前作以上に明確に表現されており、華道の次期家元たる凛一や有沢、
絵画の道を目指す省子ら登場人物たちが語る
「作品はそれ以外のすべてと無縁であるべきなのよ」といった表現論、作品論も面白い。

『超少年』(河出書房新社)
少年スワンは、憂鬱な誕生日を迎えていた。
街が祭や記念日に沸く夜、彼の誕生日を覚えてくれている者など誰もいない。
一緒に暮らす兄カイトは、ハイパーフットボールの花形選手で、試合で留守の彼に代わり荷物の受け取りを指示されているため、
家を空けることもできない。そんな彼に近づいてきた少年は、スワンのことを「王子」と呼び、
自らは「ピエロ」と名乗る。双子のようにそっくりな少年達は次々に現れ、
誰が本当の「ピエロ-α」になれるかは、群体(コロニー)Sの第一王子であるスワンが決めるのだと言う。
戸惑うスワンだが、その身体には異変が起こっていた。身体にできた水ぶくれから、植物が芽吹いていたのだ。
「本当は黙示録を書きたいわけです。植物の」
と著者がインタビューで語っているとおり、主人公の少年対謎の少年、という従来作品のパターンを踏襲しつつ、
その背景に、植物の進化と絶滅、それに伴う〈両生類(アンフイビアン)〉と呼ばれる者たちの出現と使命、
《AVIALY(エービアリイ)》での居住と管理という問題が敷かれ、物語のスケールを一段と広げている。
性的行為の原因を、性欲ではなく身体機能の一環ととらえる視点など、語り口はクールだが、
章ごとに挿しはさまれる絶滅植物の解説にある由来話などが物語に絡み、
「王子」と「ピエロ」の関係にどこかロマンチックな要素をもたらす。同時にそれらが物語全体に多層感を与え、
再読したくなる複雑な魅力を生み出している。

『サマー・キャンプ』(文春文庫)
17歳になる鏡島温(カガシマハル)は、生まれつき奇妙なアレルギーをもつ少年だった。
女性と接触すると呼吸困難が起こるのだ。
そんな体質の為、実の母親とも触れ合うことのないまま成長した彼は、
身近に居てもアレルギーが出ない唯一の女性、叔母のヒワ子と共に暮らしていた。
夏休暇が近付いたある日、ルビという少年が現れ、
彼に、サマー・キャンプの期間だけ〈フィジカルパートナー〉になって欲しいと申し出る。
アレルギーがあるとはいえ、自己の性嗜好はヘテロと自覚する温は、一度は拒絶するのだが……。
生殖医療の発達した近未来を舞台に、人工受精で誕生した少年が、出生、家系、性別(染色体)、性的嗜好など、
自身にまつわる全ての真実を知る、という物語が、謎解きの形をとりながら、あくまでクールに描かれる。
無口な少年と手癖の悪い少女、二つの人格をそなえたルビ、そんな彼をなぜか「あなたの弟よ」と言う母親。
父親の〈フィジカルパートナー〉でありながら、何かにつけ温をかまう辰(トキ)。
そして姉やヒワ子の奇妙な言動。謎に翻弄される温がたどり着く真実は残酷だが、
ラストに悲しみを超えた爽快感すら漂うのは、著者の他作品の少年たちと同様、
どんな立場にあろうと毅然と顔を上げる主人公の姿と「人は何のために生まれてくるのか」という、
ともすれば手垢のついたテーマが、嫌味にならずきっちりと表現されているためだろう。

『彼等』(集英社文庫)
『白昼堂々』『碧空』に続く凛一シリーズ第三弾。京都の明倫館大学でフットボール選手として活躍する氷川。
彼への想いを抱き続けながら高校三年に進級した凛一は、彼を追って京都の大学へ進むことを決めていたが、
従弟・正午の突然の入院、千尋とは別の形で支えになっていた千迅の突き放した態度、
氷川との感情のずれに思い悩み、自分の行く道を模索する。
凛一と氷川の関係のみならず、凛一が兄のように慕う千尋との距離感や、
精神的なショックから立ち位置を見失った正午との関係、氷川の兄の死にまつわる物語など、様々なエピソードが交錯。
前2作で積み重ねられてきたものが堰を切って動き出した印象があり、
実際シリーズ最長編というのもあって、最も読みごたえのある作品になっている。
とりわけ、氷川が兄・啓介の死について、また、それにまつわる心の影を凛一に告白する後半は、
二人の心の成長と共に、新しい関係の階が提示され、深い余韻が残る。
なお、タイトルは稲垣足穂の『彼等〈They〉』によるものだそう。

『ぼくはこうして大人になる』(新潮文庫)
鄙びた海辺の町に暮らす“ぼく”印貝一(いそがいはじめ)は、
幼いころ年の離れた兄と姉により自分を女だと信じこまされて育ち、中学三年生になった現在では、
自分が同性にしか惹かれないことを自覚していた。不安を抱えつつ、
表向き優等生として教師と同級生の信望を得て穏やかな学校生活を送っていたが、
転入生の七月がやって来たのを境に、そんな日常は少しづつ歯車を狂わせていき……。
級友や家族との関係、進路、性向、同年代の少年への恋、隠されたトラウマ等、
人生のとば口で様々な事柄に向きあいはじめた少年の、ひと夏の経験と成長、恋の成就までを描いた作品。
少年たちの、繊細さと表裏一体の激しさ、強かさを描いて、
主人公が乗るボードの試合を観戦した後のような清々しい後味がある。

『絶対安全少年』(作品社)
学生の身で思わぬ借金を背負うことになった緑朗は、謎の依頼人から、
Fと名乗って指定した宿泊先で一晩を過ごせば大金を支払うといわれ、その依頼を受け入れる。
依頼人の指示に従って訪れたその宿は「霧笛楼」という、少年の待つ遊郭だった……「遊郭の少年」。
布旗(ふき)と友人の岡村くんが蒐集した摩訶不思議なことばや物を、
辞書の形で紹介しつつ、その解説の合間に布旗の長兄・麻旗への恋心が語られる「特製《豆蔵辞典》」。
これらの短編に加え、少年にまつわる短歌の紹介・解釈と、著者本人の短歌が綴られる「読み違え「少年」詩歌集」、

自身の少年観、世阿弥やルノアールの描いた少年像などについて語るエッセイなど、盛り沢山の内容&遊び心にあふれた
一冊。著者自身による挿画もエロチックで楽しい。

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