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shinobu様ご推薦1

『バンコクに死す』ダン・シモンズ(角川文庫『愛死』収録)
「バンコクに死す」ダン・シモンズ/嶋田洋一・訳(角川文庫『愛死』収録)
エイズが蔓延する時代、「わたし」は22年前ぶりにバンコクの土を踏んだ。1970
年5月、軍隊仲間のトレスと共に7日間の国外保養休暇の目的地として選んだバン
コク。そして、ここで「わたし」は友を失ったのだった。
HIVの驚異を背景に、作品集のタイトルどおり「愛と死」に彩られた快楽と恐怖を
描くホラー短編。何がどう恐怖かは読んでご確認を。


『炎の天使』ナンシー・スプリンガー(ハヤカワ文庫)
ファンタジー作家N・スプリンガーによる、堕天使と人間の恋物語。
夜のロサンジ ェルスに降り立ったヴォロスは、神に反逆した堕天使だった。翼を持つ彼は、そ の美貌と歌声でロック・シンガーとなり、
たちまちスーパースターの座へとのぼ りつめる。が、そんな彼を悪魔と呼ぶ集団が現れ……。 
人間として生きはじめたヴォロスの最初の恋人は、メルセデスという美しい青年 、という設定。最終的にはヘテロの恋愛に落ち着いてしまう物語だが、
天使が「 人間」になるべくあらゆることを学んでいる過程は、感動的でもあり楽しめる。


『おかしな奴が多すぎる』トニー・フェンリー/田村義進・訳(扶桑社ミステリー)
『おかしな奴が多すぎる』トニー・フェンリー/田村義進・訳(扶桑社ミステリー)
元凄腕の検察官だったマット・シンクレアは、引退後、ニューオリンズで家具屋
を営んでいた。だがゲイの溜り場であるラムロッド・ラウンジのトイレで、殺人
事件が発生。被害者はペニスを切り取ら、肛門に苛性ソーダをぶちこまれて死ん
でいた。事件の担当となった市警のワシントン警部補は「犯人もオカマに違いな
い」と強引にマットに特別捜査を依頼する。仕方なく腰を上げたマットだが、殺
し屋に狙われるなど行く先々で災難が。
事件は一見えげつないけれど、ユーモア溢れる台詞に軽妙な展開、さりげなく散
りばめられた人情の機微など、スマートに楽しめる良質のミステリー作品。マッ
トと若い恋人ロビンの生活ぶりの、アットホームな描写もいい。
PNは男名前だが、作者はニューオリンズ在住の女性作家。続編に『首吊りクロゼ
ット』(汀一弘・訳/角川文庫)があり、また他にも、ストリッパー出身のゴシッ
プ・コラムニストで、隠れゲイの夫と暮らす女性マーゴを主人公にした『壁のな
かで眠る男』(川副智子・訳)などの作品もあり、こちらも負けず劣らずの濃いキ
ャラクターと軽妙な筋運びが楽しめる。


『遊郭の少年』辻中剛(パロル舎)
昭和十六年~二十年まで、戦火の中、新宿二丁目の遊郭「万字屋」で育った少年 ・聖の物語。
店内の複雑な人間関係、同級の少年たち、美しい娼妓・文枝への思 慕などを織り交ぜながら、「遊郭」というある種特別な閉鎖社会で育った少年の、
肉体と心のアンバランスな成長、その目を通して見た世界の醜悪さと美しさを 、詳細な描写をもって描いている。
同性愛描写は後半わずかにあるだけだが、結果、終章では成長した聖少年が終戦 後も二丁目にとどまり、
ゲイバーのママになっている姿が描写される。一時、今 村昌平監督によって映画化されるとの話もあったが、
今は立ち消えになっている ようで残念。 昔、今村組の助監督だった三池崇史監督によると「あの作品をやっていれば…… 、
あの作品が完成していれば……、本当に間違いなく今村さんは、日本映画の中 で誰も見たことがない作品にしていたはずだ」(『監督中毒』より)
との事で、 脚本もすでに完成しているとの事なので、いつか誰かの手で映画化が実現するこ とを望みたい。


『桐に赤い花が咲く』渡辺淳一(集英社文庫)
「著者初の長編推理」と銘打たれて発表された作品で、内容的にも「えっ、渡辺
淳一がこんなものを?」と驚かれる人もいるかもしれない。
残忍な刺傷が加えられた女性の扼殺体。事件は迷宮入りするが、同様の刺傷を加
えられた男性の死体がその一年数ヶ月後に発見されノノ。ミステリーなので詳し
い内容には触れられないが、捜査線上に浮かびあがった犯人についての医師のコ
メントから内容を察してください。昭和56年に発表された作品ということを考え
れば、ドキッとさせられるものがあり、ある意味、先見の明があったというか、
冷静な観察眼のなせるわざというか、さすが大家たるもの、只者ではないのであ
る。(以下、本文より引用。)
「しかし、とにかく男と女の間は一般に考えられているほど厳格なものではない
。男でも環境によっていくらでも女性的になるし、女でも育ち方によって男性的
にもなる。要するに男とか女といっても、その間にはさまざまな差があり、両方
はかなり流動的なものだ。このごろのように考え方が自由になってくると、男と
か女とか、必ずしもどちらかでなければいけないといった考え方は、次第に消え
てきている。今日は男、明日は女というふうに、どちらでもいい。自分の好きな
ほうになってかまわない。しかも、それを誰も気にしない、いまにそんな時代が
くるかもしれない」
「現にいまはもう、男が女の格好をしているし、女は男に近づいてきている。服
装も気持ちのもちようも、次第に差がなくなってきている。そのうち男でもない
、女でもないどちらにも属さない性が出てくるかもしれない」


『Miss You』『フォー・ディア・ライフ』『髑髏幻想』柴田よしき
かけだしながら熱意に燃える文芸編集者の有美。仕事も軌道に乗り、それなりに
充実した日々を送りつつあった彼女の身辺で、同僚の女性が殺されるという事件
が起きる。そして、かつての流行作家からの電話をきっかけに、彼女自身も狙わ
れはじめ……。
日常の仕事での人間関係、婚約者、作家たちなど、様々な関わりの輪がヒロイン
を追い詰める長編ミステリー。何がどうして衆道がからむかは、ミステリーゆえ
に話せないが、謎の壁を乗り越えてひと皮むけるヒロインの姿を楽しんでほしい
作品。

『フォー・ディア・ライフ』柴田よしき(講談社文庫)
新宿二丁目で、この街で働く母親たちを相手に、無認可だがあたたかい保育園を
経営している花咲慎一郎ことハナちゃんは、元刑事。本職は園長だが、慢性的な
資金不足に悩む園のために、時には探偵に早変わり。が、場所が場所だけに、金
になると引き受けた仕事はどれもヤバいものばかり。けれど背に腹は変えられず
、ハナちゃんは今日も体を張って、園で待つ子供たちのために新宿を奔走する。
園長探偵、ハナちゃんの活躍を描く連作ミステリーの第1作。主な舞台となる二
丁目という場所がら、では決してないが、ハナちゃんが扱う事件のいくつかには
、毎回同性愛要素(または同性愛者)が絡む。ミステリーなので内容は大声では
言えないが、登場するゲイの男性たちの描かれ方が通り一遍ではなく、個々のキ
ャラクターに血が通っていて、事件の解決に際しては、綺麗ごとでは終わらない
が人生への前向きな姿勢が示され、ホッとできるのも本作の魅力。
続編に『フォー・ユア・プレジャー』(講談社文庫)『シーセッド・ヒーセッド
』、また(2006年3月現在)Jノベル誌にて連載中の「ブルーライト・ヨコハマ」
がある。

「躑躅幻想」柴田よしき(新潮文庫『貴船菊の白』収録)
京都に居を構える作家の記憶に焼きついた、鮮烈な春の出来事。そのときから七
年、彼はあのときの少年にもう一度会いたい一心で、京都に住んでいた。
新人賞の受賞記念にと、賞金で出たささやかな京都への旅でメわたしモは、鴨川
の河原で猫を探す少年に会う。謎めいた態度と言葉を発するその少年に魅惑され
た一時の記憶を、少年が残した謎とともにミステリータッチで描いた短編。この
作者にしては珍しく、耽美的な匂いの濃厚な作品。

『イヴの鎖』『雪うさぎ』『運命の花』『さくら さくら』榊原姿保美

『イヴの鎖』榊原史保美(双葉社)
名門一族に生まれ、国立大学在学中に司法試験に合格、
弁護士となった有吉馨( かおる)は、その輝かしい道のりとは裏腹に、心に深い鬱屈を巣食わせていた。
母との愛憎、そして何より自分がトランスセクシュアルであるという真実。弁護 士の道を着実なものにしながらも、
自分の存在を肯定できず苦悩する彼女の周囲 で、さまざまな男女の愛と思惑が交錯していく。 物語の中心となるのは、
トランスセクシュアルを自認する主人公と、その女子校 時代の友人たちとの関係で、彼女らの関わりの深さや
激しい感情のぶつかり合いまでむき出しに描かれるエピソードの数々は、同性としては、正直読んでいて胸 に痛いものもある。
が、同時に、彼女が扱う事件や幼なじみとのつながりの中に 、男性同士の関係、トランスセクシュアルであるためにつまらない男に恋をし、
裏切られる青年の姿などが織り込まれ、様々な角度からトランスセクシュアルと “愛の形とはひとつではない”ことに光が当てられている。

『雪うさぎ』榊原史保美(クリスタル文庫)
茶道宗家に生まれた羽生雪彦は、時折心に「何にともなくわき上がる、たぎるような怒り」をおぼえながらも、
表面的には不満のない、穏やかな生活を送っていた。家庭教師の悠一と関係を重ねてはいるが、それにも執着はない。
だが、夏の終わり、避暑地で出会った青矢との結びつきは、彼の進む道を変貌させる。 純粋な愛と救いを希求する少年たちの姿を描く青春編。
カバーイラストと挿画が 、かつて「小説JUNE」で「カインの月」の挿画を担当した蔦峰麻利子さんなのが 、往時の読者としては嬉しい。

「運命の花」榊原史保美(廣済堂文庫『異形コレクション? グランドホテル』収 録)
書き下ろしホラー・アンソロジー文庫の中の一編。
バレンタインの夜、逗留先の 古いホテルで男が出会った少年の記憶を、散文詩的な文章と写真(撮影:藤原圭人 、モデル:京)で綴った作品。

『さくら さくら』榊原姿保美(勁文社)
広大な森林の中に、洋館を改造した精神病院を営む有近家。長期逗留の客のよう にその開放病棟で暮らす患者たち、
鏡を見ることを恐れる青年医師、院長の息子 である妖艶な青年、死んだ双子の訪れを待つ美少年など、いく人もの運命が、
有 近の家に伝わる“桜守”の伝承のもと、中庭に枝を広げる桜の古木の下で交わり 、歯車を狂わせていく。
ゴシック・ミステリー調の舞台設定で描かれる、さまよう魂の開放の物語。
また 、恩師の死とその最後の手紙に書かれた和歌「鏡面に 映りし夜叉の朱き血が/ 染めし一夜の 八重桜かな」に導かれ、
“御夜叉様”を祀る神社の秘めた謎へと 足を踏み入れていく男を描いたミステリー「夜叉の鏡」も収録。こちらも、
神社の宮司を継ぐ青年の秘め事や、主人公の過去にある学生時代の先輩(現在は刑事 )との関係など、
同性愛が物語を構成する要素として散りばめられている。宇野亜喜良による装丁が美しい。


『ブロークバックマウンテン』アニー・プルー(集英社文庫)
アカデミー賞を賑わせた話題の映画の原作。
1963年夏、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンで、羊の放牧をするカウボーイ仲間として出会ったジャックとイニスの秘めた愛を描く、
というストーリーは映画と変わらないが、実際にワイオミングで暮らす著者の視点で綴られた二人の歩みは、60~70年代の激変する西部を背景に、
男同士の愛を隠しとおすことの痛み、それに伴う悲劇はもちろんのこと、失われた夢(カウボーイという生き方)へのこだわり、
大自然の中でのみ得られる自由、男たちの絆が深まれば深まるほど阻害されてゆく女の姿など、現代流ウエスタンともいうべき内容になっている。
主人公二人の心理描写に加え、彼らが登る山の姿やキンと張り詰めた空気を伝える文章は、繊細でありながら一本芯が通っており、骨太さを感じさせる。
もしかすると、映画の方とは好き嫌いが分かれるかもしれないが
「フロンテイアでのみ生きたい、そこでしか生きられない」男たちの悲哀が深い読後感として残る。


『めぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人』マイケルカニンガム(集英社)
六月のある美しい朝。異なる時代に生きる三人の女たちが、それぞれの人生で特
別の一日を迎える。
1923年、ヴァージニア・ウルフは「神経への過度の刺激を避けるため」暮らしは
じめたロンドン郊外リッチモンドで、今しも『ダロウェイ夫人』を執筆しようと
していた。1949年ロサンジェルス、ローラ・ブラウンは、夫の誕生祝のために幼
い息子とケーキを作りはじめる。お腹には新しい子供がいるが、夜毎遅くまで『
ダロウェイ夫人』の読書がやめられない。20世紀末のニューヨーク、メミセス・
ダロウェイモの仇名で呼ばれる編集者のクラリッサ・ヴォーンは、文学賞を獲っ
た元恋人のリチャードの為にパーティーを開こうと、花を買いに出かける。
メモダニズム文学の旗手モと呼ばれるヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人
』を軸に、それぞれの時代を生きる女性像を、時間を交差させながら描いた作品
。と言ってしまえば簡単だが、彼女たちそれぞれの中に息づく同性への愛情が、
もうひとつのテーマを作品に添えている(特に、2002年の映画化ではそのテーマ
性が強調された)。
「ミセス・ダロウェイ」と題された現代のパートでは、クラリッサと元恋人リチ
ャード、そしてリチャードが同時に愛した男ルイスとの三角関係が綴られる。文
学賞を受賞し、栄誉の中にありながらHIVを発症して家に引きこもるリチャー
ド、彼を愛しながらも彼から去ったルイスが、一瞬、クラリッサを訪ね再会する
場面は、切なくはあるがどこか滑稽で、歳月(時間)の流れを全編中で最も強く
感じさせ、物悲しい。
以下はこのときルイスが自分の現在の恋人とのことを思うくだりだが、この作品
にはこうしたム大袈裟な言い方かもしれないがム人生についての印象に残る言葉
がいくつもある。これらの言葉を追うためだけにでも、手にとって損はしない一
冊だ。

「真実を言えば、彼はハンターを愛してはいず、ハンターも彼を愛してはいない
のだ。情事を持っているだけ。それは情事に過ぎない。彼は相手のことを何時間
も続けて考えることができない。ハンターにはほかにボーイフレンドが何人もい
る。その将来はすべて設計済み。そしてルイスは内心認めざるを得ない、自分が
引っ越したとき、ハンターの甲高い笑い声や欠けた前歯や拗ねたときの沈黙を失
って、そんなにさびしいとは思わないだろうと。
 世界には愛がほとんどないのだ。」(本文より)


『東京ゾンビ』花くまゆうさく原作/佐藤佐吉(竹書房文庫)
映画『東京ゾンビ』のノベライズ版。
したがって、内容は時々細かな登場人物の背景なり心情なりが描きこまれる以外は、とくに映画と変わるところはない。
ただ残念(?)ながら、フジオは中学教師にファーストキスを奪われただけ、という事がわかるので、
読んでから見ると妄想度が下がるかもしれない。とはいえ、全体に通低音として流れるホモ臭さは、ほぼ映画どおり。


『哀れ、ダーリンは娼夫?』ルパート・エヴェレット(アップリング)
英国俳優ルパート・エヴァレットが1992年に発表し、半自伝的内容でセンセーションを巻き起こした作品。
8歳になる頃に自分のペニスに夢を打ち砕かれ「大きくなっても有名女優にはな
れないんだ」と知ったライスの、男女とりまぜてのセックスと恋、冒険の物語。
フランシス・クリヒトン・スチュアートによるイラストもユーモラスで楽しめる。


『ガラスの季節』桐生操(あんず堂)
「犯された少年の図。それは刺激的な見世物だ。
暴力を通過させることで、これ まではただ蒼いだけ、未熟なだけだった存在が、
こんなにも宿命的なものに変わるのか。咲き開くまえにもぎ取られた花のように、抜かれたばかりの剣の刀身の ように。」(「反・神話」本文より)


女性二人のペンネームとして知られる桐生操、その一方の人物である上田加代子氏の、20代の頃に書かれた短編を集めた作品集。
収録された3編のうち2品(「反・神話」「夭き神たち」)が、少年たちを主人公とし、
その若さや危うさゆえに剥きだしにされる嫉妬、恋情、衝動的な暴力、 死と表裏一体の性などが、
書名どおりガラスのように繊細な筆致で綴られている 。描かれる少年たちは誰もが若さゆえの美と傲慢さを誇り、
同時に脆く揺れ動い ており、エロティックで魅惑的だ。


『狂桜記 大正浪漫伝説』栗本薫(角川文庫)
「桜屋敷」と呼ばれる家に暮らす幹彦。中学生の彼は、母と妹、叔母やいとこた 
ちと共に生活を送っていたが、ある日、いとこの聡と共に「入ってはいけない」 と言われていた西の土蔵に近付き、得体の知れない声を耳にしてしまう。翌日、 
庭の桜に首を吊って聡が死に、さらに続けて屋敷の中で行方不明者が……。 タイトル通り大正時代を舞台にした、文庫書き下ろしのミステリー作品。事件の 
詳細を書くことはできないが、女の着物を纏わされ犯される主人公の様子、「赤 マント」の事件の禍々しい風聞、旧家に垂れ込める影など、和風ゴシックのあら 
ゆる要素が堪能できる作品。
『双頭の性。』高橋一起(新風舎文庫)


『双頭の性。』高橋一起(新風舎文庫)
性転換手術によって肉体的にも女性となり、自分の心どおりの性を選んで生きて
きた薫は、しかし老齢を重ね、今は性別の不確かな存在となっていた。そんな折
、かつての店の共同経営者で、ゲイの友人アコが焼身自殺する。アコから遺され
た手紙には「葬式のかわりに、森のテラスで午餐を開いてほしい」とあり、薫は
その遺言どおりに、アコが指定した料理をもって、既に死者である招待客たちと
の午餐を開こうとするのだがノノ。
主人公が性同一障害者を自認しているので、正確にはゲイとは言い難いかもしれ
ないが、老年を迎えた彼女(彼)の周辺で起きる、連続自殺とも殺人ともつかな
い事件のうちに、ゲイとして、あるいは性同一障害を認識する者として生きる人
生の過酷さ、孤独の深さを描いたミステリータッチの作品。トリックというのと
はまた少し違うが、午餐用に指定された料理は「液状化した黄金の生殖細胞」「
逢う魔が時を飛んだトマト」「色魔に捕われたロブスターの艶やかな眠り」「い
ちじくと野いちごの謎的要素」など、意味付けされたネーミングも内容も凝って
いて印象に残る。
ただ、こうしたことがらを表現したい、という作者の志はわかるものの、ストー
リー展開の陰惨さや語り口から滲み出る、そこはかとない同情的な視線が気にか
かり、けして後味が良くないことも確かだ。


『三島由紀夫-剣と寒紅』福島次郎(文藝春秋)
昭和20年代の半ば、書生として三島邸へ出入りしていた著者による、三島由紀夫 との交流と感情的葛藤の記録集、といえる一冊。
発表されたばかりの『仮面の告 白』に感動し、男色者としての鬱屈を抱えて、手紙をたずさえ三島邸を訪問した 著者は、
それがきっかけで三島由紀夫本人に気に入られ、足しげく出入りするよ うになる。
そこで彼が知り、関わった、天才作家であると同時にひとりの男とし ての三島の姿が、客観的な筆致で、しかし生々しく描かれていく。
『禁色』の南悠一のモデルになった美青年に捨てられ、傷つく姿、著者との性交 にみせる幼い子供のような様相、下手な文学論を嫌い、
著者の口にするイメージ 的な感想に耳を傾ける姿、文壇での付き合いの律儀さ、父・梓氏や母・倭文重(しずえ)との交流。
それらをつぶさに眺め、体験しながら、肉体関係を重ねるにつれ、また東京の華の部分に触れていくにつれ、
変化していく著者自身の三島由 紀夫への期待と感情。けれど、著者自身が三島への性的な欲望を持ち得なかった ために、
二人の関係があっけなく破綻していくさまが、著者の人生と心境の変化 を踏まえつつ綴られていくが、その後紆余曲折を経て、交流を回復させたものの、
明らかな距離を感じさせるその関係の描写に、三島の側にあった密かな鬱屈を 見る気がするのは、うがち過ぎだろうか。
本書は三島と著者が交わした個人的な書簡の内容を掲載し(その事実自体は確か にどうかと思うが)、出版差し止めになってしまったが、
ともかく、このような 形で三島由紀夫について何か書かなければならない、自分の記憶を書き留めねば ならないという著者の思いは伝わってくる。 
三島邸へ通うのをやめた著者が『禁色』の「ルドン」の元になった店「ブランズ ウィック」でアルバイトを始めるなどのくだりは、
当時の東京風俗がかいま見え 、そうした面白さもある。


『蝶のかたみ』福島次郎(文藝春秋)
同性愛者であり、少年時代、米兵に強姦されたのをきっかけに、女装に身をやつ すようになった弟。
そんな彼を、肉親として、また同じ同性愛者として、愛憎半 ばする思いをもって見つめる兄の視点で描いた表題作、
工業高校の教師である主 人公と、その教え子との、一年にわたる下宿での逢瀬の日々と虚しい幕切れを描 く「バスタオル」の2篇を収録した作品集。 
著者は1930年熊本県生まれ、1975年「阿武隈の霜」で九州文学賞受賞、1996年「 バスタオル」が第115回芥川賞候補になった。
『淫月』福島次郎(文藝春秋)

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