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shinobu様ご推薦4

「元禄色子」池波正太郎(新潮文庫『あほうがらす』収録)

「男色(なんしょく)武士道」池波正太郎(新潮文庫『あほうがらす』収録)
十五歳の美少年・鷲見左門は、同じく小姓づとめの千本九郎と、深い情愛を交わしていた。
「断金の仲」と、ものの本にも書きのこされるふたりの間柄は、肉体関係こそ伴わないものの、深く清冽で、誠実なものだった。
だが、同じく池田出雲守につかえる徒士・佐藤勘助に、左門がいわれなき侮辱を受けたことから、二人の命運は変わりはじめる。
九郎の助太刀のもと、左門は佐藤を斬り、出奔した。引き離された二人の深い情は、しかしその後も変わることなく、
再会はかなわぬまでも、時をへて二人の運命をふたたび結びつける。
武士道のもとでの男同士の情愛と信頼を、深く、しかし爽やかに描いた短編。
ラスト、年老いた九郎の、己の死を悟っての呟きが泣かせます。


『仲蔵狂乱』松井今朝子(講談社文庫)
無名の子役から大名題へ、その芸の力によってのぼりつめた伝説の役者・中村仲蔵の生涯を描く長編小説。
前半では、彼と兄貴分である役者との関係や、その間に生じる裏切りなども描かれます。
衆道に関する描写は多くありませんが、当時の役者関係、芝居小屋の裏側などの風俗などの描写は細かく、
すべての鬱屈を踏み台に芸道へ邁進する仲蔵の姿は清々しくもあり、読み応えあります。
巻末の解説は萩尾望都先生。


『アレクシス あるいは空しい戦いについて』マルグリット・ユルスナール(岩崎力訳・白水社刊)
オーストリアの没落貴族の青年アレクシスが、別れた妻に宛てて書く手紙の形をとった、書簡形式の小説。
妻への告白、という形をとっているので、オープンな表現はされませんが、主題が同性愛であることは間違いなく、
アレクシスの言葉を通じて、自分の本来の愛を隠しおおせねばならないがための“人生と愛の乖離”とその苦悩が文面から滲み出てきます。
けして手軽に読める本ではないのですが、泉のように溢れる言葉の流れに圧倒されるうち、読み進めてしまいます。


『ハドリアヌス帝の回想』マルグリット・ユルスナール(多田智満子訳・白水社)
ローマ帝国史上、稀にみる多才と行政者としての有能さで知られる皇帝ハドリアヌス。
彼が死を目の前にして語り尽くす生涯、そこには野心、思想、政治、そして彼の愛した少年の記憶があった。
ローマ皇帝その人の内面に入り込み、すべてを一人称の肉声で語った本作は、どれ程の知性と想像(創造)力をもってすれば、
これだけのことを語り尽くすことができるのだろう、と思わずにはいられない驚異の書であり、
同時に、その溢れる言葉と流麗な語り口によって、読み手を古代ローマの世界へ連れ去ってしまう、
まさに「読書の快楽」が味わえる一冊。


『恋人たちの森』森茉莉(新潮文庫)
十六の夏、穂高に登った山小屋の中でギランと一緒に秘密の果実を味わって以来、中身は子供のままでませ、
レオは白い毒の粉をふり零してギランを誘惑する、邪悪の天使に化した。
本気でレオに惚れたギランは知りながら、レオを、極限まで、ませるようにしむけ、
自分の破滅を、少しづつ近くに、招きよせるのだ。(「枯葉の寝床」本文より)


「すべての行動に贅沢と浪費を匂わせる」男ギドウと、彼に思いを寄せられる少年パウロの恋と情事、
その頽廃的な行く末を描く表題作のほか、愛する少年を、その魅力ゆえに他者に奪われることを拒み、死を選ぶ男の悲劇「枯葉の寝床」、
恋した男のゆえに婚約者を捨てる少年が主人公の「日曜日には僕は行かない」などを収録した短編集。
著者の研ぎ澄まされた美意識が描く、美しい男たちの織り成す恋の世界は、
その繊細な語り口と硬質な美しさのある文体によって表現され、まさに耽美という形容が相応しい。
「この世ならざる世界」に一時、足を踏み入れたい方へ。


『花闇』皆川博子(集英社文庫)
かったい……だろうか。
田之助の体は、内側から腐爛しつつあるというのか。
水に落ちた泥人形のように溶けくずれてゆくのか。そうであれば、そのさまを、わたしは逃げまい、しかと見ていよう。
月岡芳年の、直助権兵衛の皮剥ぎの無残絵が瞼に浮かび、三すじは目の前を両手で払った。 
(中略)
 ――かったいならば、わたしにもうつるのだろう。
この痛みを、わたしもわかちあうことになるのだろう。そうして、いっしょに腐爛していくのだろうか。
 芳年を誘いこみたいと、三すじは、ふと思った。芳年なら、わかるだろう、三人の血肉がともにとろけ、
一つに溶けあっていく嬉しさを。(本文より)

幕末から明治初期にかけ、一世を風靡した歌舞伎役者、三世・澤村田之助。
人気役者の御曹司として生まれ、美貌と才能に恵まれた女形として、混乱の江戸に大輪の花を咲かせながら、
不治の病に犯され、足を失いながらも舞台に立ちつづけたものの、34歳の若さで狂死した彼の生涯を、
同門の大部屋役者の目を通して描く長編小説。語り部となるのは実在の人物・市川三すじ。
四歳で初の楽屋入りをする田之助を見たときから、その浮世離れした存在感に魅入られ、後に彼の影として、
手足として尽くす三すじの、淡々と醒めた口調のなかに込められた田之太夫への深い思いが、情感豊かな文章で綴られます。
三すじの唯一の理解者に、浮世絵師の月岡芳年を配し、
混乱期の江戸の仇花である田之助と、彼を必要とした世相をあぶりだす手法も効果的。
色子として客をとる大部屋役者の挿話や、子供時代の田之助に執心する僧侶のエピソードも語られます。


『五代将軍』南條範夫(毎日新聞社)
徳川五代将軍・綱吉の治世を描いた短編連作集。
綱吉が美童好みであり、また、それを反映して、この時代、若衆や美童がもてはやされたために、
ほとんどの収録作(全7編)にそれらの記述が、量の差はあれ登場しますが、
それ自体が大きなモチーフとなっているのは「男色大鑑」と「松蔭の日記」の2編。
前者は美貌ゆえに、関白の思われ者から将軍家御側用人の寵童に、そこから無頼の徒に輪姦されて、
蔭間、香具売、寺小姓、そして佐渡の島送りへ――と流転する少年・弥之助の姿を、
後者は、綱吉のもと寵童・柳沢主税房安の、生涯における野心、
それを現実のものとした綱吉の恩寵にみる二人の関係を描くもの。時代風俗、政治のあり方、すべてが微に入り細にうがって描かれ、
へたな史料を読むよりも、これ一冊でよほど綱吉治世の勉強になる、と思わせられます。


『少年行』南條範夫(講談社/旧題『城下の少年』)
彼の恋情(こいごころ)が、異性に対してではなく、同性の秀三郎に向けられていたことは、少しも事態の本質を変えるものではなかった。
武家の少年が、初恋の対象として少女にめぐり会える機会は、極めて稀であるが、
もしそのような幸運に恵まれたとしたら、必ずその少女に対して抱いたであろうような、
純粋さと熱度とをもって、晋作は秀三郎を恋した。だから、そこには、異性に対するのと同じような、一種の色っぽささえ見られた。
秀三郎のことを思いつづけていると、皮膚がうずき、そこに触れている衣類が、そこにいない秀三郎に代って、
そのうずきを撫でこすり、刺戟するかのようであった。(本文より)


幕末の萩城下、少年・高杉晋作の抱く夢と野心と、明倫館の同期生・秀三郎に寄せる幼い、だがそれゆえに激しい恋心を描いた作品。
少年から青年への移行のさまが、詳細ながらみずみずしい筆致で語られ、
晋作が秀三郎に寄せる思慕の描写も非常に繊細。若木の豊かな成長を見届けたような、読後の清々しさも印象的な作品です。


『元禄心中記(天の巻・地の巻)』栗本薫(光風社出版)
元禄時代、将軍綱吉の深い寵愛を受け、権勢を誇った柳沢保明と、彼の手によりつくりあげられた松陰組を軸に、
それに関わり、あるいは一員となって命を散らしてゆく少年たちの、純粋さゆえの酷愛を描いた短編連作集。
弟へのねじれた愛から死に至る武人の兄「無明灯心中」、
禁じられた小姓同士の恋情が悲劇を生む「前髪心中」、
京の裕福な呉服屋の息子・惣三郎が美貌ゆえに呑まれる運命の荒波「心中西国譚」、
柳沢保明のもとで立身出世を狙う男の、師の息子への歪んだ妄執「心中油地獄」、
悲壮な運命に翻弄される父と子の物語「小日向心中」
他全10編を収録。どれも時代背景は同じ、心中というラストは同じ、でありながら
これだけ違う設定、人物、ストーリーを巧みに配するところに、ベテランの技を感じます。


『あなたとワルツを踊りたい』栗本薫(ハヤカワ文庫)
23歳の一人暮らしのOL・はづきは、友達の美恵子と共に売り出し中の若手俳優・鮎川優貴の追っかけに夢中。
その彼女の悩みは、夜中に何度もかかってくるイタズラ電話。
電話の内容は日毎にエスカレートし、やがて彼女のみならず、優貴への悪意に満ちた攻撃へと転化していき……。
ストーカー行為の描写を中心に、人が他者の“妄執”に呑まれて破滅するさまを描いた、戦慄のサイコ・サスペンス。
はづきの視点、ストーカー男の視点、さらに優貴の視点と、章ごとに主人公を変化させながら語られる重層的なストーリーは、
さすがに読ませます。特に優貴の章でポイントとなるのは
彼と先輩俳優の田所との性関係で、優貴がその秘密を第三者に握られたことで起こる葛藤、憎悪のたたみかけるような描写は読みごたえあり。
ただし、題材が題材だけに、読後感ははっきり言って良くありません。ハッピーエンドを求める方はご注意を。


元禄無頼 栗本薫
「JUNE」に連載された時代小説。無頼の日々を破滅へとひた走るしかない旗本退屈男たちの滅びの詩。
彼らをとりまく稚児、美女、色若衆、入れ乱れての絢爛元禄絵巻。


『青月記』榊原姿保美(角川文庫)
日舞の世界に生まれ、心臓を病んで、死の淵を常にのぞきこむ生活を送っている少年・錦が、兄弟子に向ける激しい執着を描く「蛍ケ池」、
天才芸術家との出会いから人生を狂わせていく青年が、運命の皮肉を経て自分のあるべき場所を見いだす「カインの月」、
名門梨園の舞の名手でありながら、絶対的な秘密を抱えた寿美と、彼の魔性に翻弄される男たちを描く「奈落の恋」
を収録した初期作品集。
小説JUNE創刊当時に読者を熱狂させた作品群のレベルの高さもさることながら、あとがきに書かれた著者の決意表明が感動的です
曰く

「私は、私にできるかぎり、真実の救済を目指す物語を書き続けていくつもりでいます。
心地良い夢や、一時の慰めをもたらす擬似現実を提供するための小説ではなく、
自己受容の構造そのものの変容を果たす世界観を描いていかなくてはならないと思っています」

へヴィーな決意表明かもしれないが、現在BLと呼ばれるジャンルになってしまった小説群は本来、
このような書き手の悲壮なまでの志によって歩みはじめたものなのだ、ということが痛感できる一冊です。


北京故事 藍宇 北京同志(講談社) 
インターネットの同性愛サイトで発表されて反響を呼び、
その後、スタンリー・クワン監督による映画化(カンヌにも出品)で有名になった小説の翻訳版がようやく発行されました。
東欧との貿易で富を築いた27歳の実業家・捍東(ハントン)は、自信に溢れ、男女を問わず漁色する享楽的な日々を送っていた。
ある日、彼は大学進学のために金を必要としている十六歳の少年・藍宇(ランユー)と出会う。彼の初体験を金で買った捍東だったが、
その後も藍宇に離れがたいものを感じ、また彼の一途さに引きずられるようにして関係を続け、
やがて二人の間にはのっぴきならない“愛”としか呼べない繋がりが生まれるが、
ジェンダーに縛られる捍東は、有能で美しい通訳の林静平と結婚するために藍宇を捨ててしまう……。
という物語が、作者曰く「感情と衝動に拠る」熱っぽい文体で綴られていきます。
決してうまい小説ではないのですが、勢いがあり、何より10年に亘る主人公の感情の変化が綿々と綴られることで、
裏切りも打算もすべてひっくるめて、純粋な恋愛小説となっています。
作者の北京同志はアメリカ在住の中国人女性で、インターネットのゲイ小説サイトを廻っていて、
そのつまらなさに呆れ「それなら私が書いてやる!」と小説を書きはじめたのだとか。
映画のほうは、日本では2001年の東京フィルメックスと2002年の東京国際レズビアン&ゲイフィルム・フェスティバルで上映され、
カンヌ映画祭の「ある視点」部門にも出品されています。



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